今回は、投資用不動産を買う際の「ローン年数」のお話です。このローン年数、35年だったり40年だったり45年だったりと、不動産販売業者によってプランはさまざま。なぜ年数が違うのでしょう? 実はこれ、安易に選ぶと痛い目に遭う可能性があるんです…。
不動産価格の高騰で“超長期ローン”が登場
そもそも不動産のローンといえば、かつては35年までが上限でした。ところが少し前に金融機関からさらに長期のローン商品が登場し、ローンは実質45年が上限となりました。なぜローン年数が引き上げられたのか。さまざまな要因が考えられますが、特に大きいのは以下の2つでしょう。
1つめは、建築技術の進歩で昔より物件の耐久性が増していることです。それにより金融機関は、35年を超える長期融資でも回収できるだろうと考えるようになってきています。
そして2つめが、不動産価格の高騰です。東京オリンピックを控えていることもあり、ここ数年で不動産の価格は目に見えて高くなりました。建築にかかる人件費や資材費も相当に高騰しています。そうして物件の値段が高くなったことで、35年ローンでは月々の支払いが重くて買えない人が多く出てきた。そこで新たに45年や40年といった“超長期ローン”が登場したというわけです。
これにあわせてローンの完済年齢も、従来の79歳から84歳に引き上げられました。これにより39歳までであれば、45年ローンが組めるようになりました。
では実際のところ、35年ローンと45年ローンでは、どちらがいいのでしょう?
35年と45年では、支払総額が数百万円も違う
まず45年ローンのメリットはなんといっても、月々の支払いが軽いことです。45年ローンだと、月々の収支(家賃収入から、毎月のローン支払い額+物件管理費・修繕費を引いた額)が数千円程度のマイナスで収まったり、場合によっては数千円のプラスになったりします。また、付帯する保険の適用期間が必然的に長くなるというメリットもあります。
逆に45年ローンには大きなデメリットもあります。それは当然ながら、支払総額が増えること。参考までに価格2500万円の物件を35年ローンと45年ローンで買った場合の支払額をシミュレーションしてみましょう。
まず2500万円の物件を金利2%・35年ローンで購入した場合、月々のローン返済額は8万2000円に。そしてローンを完済するまでに払う総額は、トータル3478万円となります。
対して2500万円の物件を金利2%・45年ローンで買うと、月々のローン返済額は7万円ほどですみますが、完済までの支払総額はざっと3793万円に膨らみます。しかも金融機関によっては45年ローンの金利を35年ローンより少し高く設定しているので、支払総額はさらに増える場合があります。
また、“収穫期間”の短さも45年ローンのデメリットです。たとえば40歳でローンを組み、90歳まで生きるとしましょう、その場合、ローンを完済して家賃収入を丸々受け取れる期間が35年ローンなら15年間あるのに対し、45年ローンだとたったの5年間になってしまいます。
「騙し売りはやめましょう」と嘆く金融マンも
つまりあたりまえの話ですが、ローン年数は短かければ短いほど支払総額が少なくなり、完済後のおいしい期間も長くなります。だから投資ローンというのは、「返せる分はどんどん返していくこと」が基本戦略になってくるのです。
それをふまえたうえで、確固たる理由があるのであれば40年ローン、45年ローンも選択肢となるでしょう。たとえば今はちょっと苦しいけど数年後に所得が上がる見込みがあるし、将来的には繰り上げ返済も考えているというような状況であれば、45年ローンを選ぶのも大いにアリかもしれません。
いずれにしても問題なのは、40年先、45年先、さらにはそれ以降をきちんとイメージせず、毎月の収支がいいからと安易に超長期ローンを選んでしまうことです。営業マンは不動産を売りたいので、往々にして「月々の支払いがほとんどかかりません。しかも完済までの45年間、保険が適用され続けますよ」などと聞こえのいい部分を強調します。
そして買う側にとっては、月々の支払いがほとんど発生しないので、ローン年数が増えることで支払い総額が大きくなるという実感を持ちにくいんです。だからこうした超長期ローンに対して、「そういう騙し売りみたいなことはやめましょうよ」と嘆く金融マンもいます。
月々の収支ではなく、トータルの収支が大切
中には「45年ローンにすることで、毎月の収支が数万円プラスになります」というのを前面に打ち出したプランもあります。しかしそうしたプランは、一括借上額が相場よりかなり高く設定されていることも少なくありません。
※一括借上契約についての記事はこちら
そうしたプランの場合、物件を買って10数年経った頃に最初の家賃設定では全く客付けできなくなり、一括借上額が大きく下方に見直される可能性があります。それにより月々のローン支払いがままならなくなり、仕方なく物件を売却し、結果数百万円の赤字を被るといった事態にもなりかねません。
また、こんな悪質な営業プランもあります。「月々の収支はプラス!新築で最初の10年間は節税の効果もある!10年経ってローン残債程度で売却すれば、損しないですよ!」といったものです。でも実際のところは、節税といってもそこまで大きな金額にはなりません。
※不動産経営の節税に関する記事はこちら
そして何より問題なのは、45年ローンだと10年返済しても、まだローンの多くが残ることです。2500万円の物件を45年ローンで10年返済しても、残債はなんと2120万円も残ります(35年ローンだと1950万円)。新築で2500万円だった物件を10年落ちで2120万円以上で売るというのは現実的なのでしょうか?(少なくとも、今のトレンドだと難しいはずです…。)だから利益が出るどころか、赤字になる可能性が大きいんです。
こうした“売りたいだけ”の営業マンの餌食にならないためにも、投資ローンを組む際は「トータルの収支」をきちんと見据えることが大切になります。それには月々の収支だけでなく全体の支払額を具体的な数字で出し、比較・検討すること。向こう何十年も関わってくることだけに、目先の“楽さ”に流されてしまうのはもったいなすぎます。