ワンルームマンション投資の賃貸経営で、オーナーが忘れてはいけないのが、部屋の「原状回復費用」です。物件に入居者がいれば当然、部屋に汚れや何らかのダメージが生じます。入居者の入れ替えの際に、それをクリーニングや改修できれいにするための費用が、原状回復費用です。投資用ワンルームマンションでは、入居者が3~5年で入れ替わることが一般的なので、借主はおおよそ3~5年ごとに部屋の原状回復費用を負担することになります。
「でも、入居者が入居時に預ける『敷金』で、たいていの改修はまかなえるのでは?」とも思うかもしれませんが、実はそうではないのです。敷金では決して、原状回復費用のすべてはまかなえません。いったいなぜでしょう?
原状回復費用を、貸主と入居者のどちらが負担するかについては、原則として「経年変化」や「通常損耗」に関しては貸主が負担し、「入居者の故意や過失により発生した損耗やキズ」などは入居者が負担する決まりになっています。つまりは、通常の常識的な使用で発生する劣化はすべて、貸主が負担する必要があるのです。
したがって敷金があてられるのは、基本的には入居者の故意や過失で生じた損耗に対してのみです。もしそれを敷金でまかないきれない場合は、入居者が追加で費用を出します。逆に、入居者負担の原状回復費用が敷金の範囲で収まる場合は、敷金の残りは入居者に戻されます。敷金というのは、あくまで入居者負担の原状回復に備える「準備金」なのです。
では、具体的にどんなケースで貸主負担となり、どんなケースで入居者負担となるのでしょう? その判断基準になるのが、「賃貸住宅紛争防止条例」です。これは正式名を「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」といい、かんたんに「東京ルール」と呼ばれることもあります。ここに原状回復に関する細かなルールが述べられていて、賃貸契約の際にはそれを宅地建物取引業者が借り主に説明することが義務付けられています。
そしてその内容を見てみると、貸主が負担すべき範囲は、イメージ以上に多いことがわかります。あくまで一般的な例示にはなりますが、以下にいくつか挙げてみましょう。
一方、以下のようなケースは、原状回復は基本的に入居者の負担となります。
ちなみに東京ルールというだけに、適用されるのは東京の物件のみかと思いますが、最近は東京以外の物件でも同じような契約形態が広がっているようです。
では実際のところワンルームマンション投資では、貸主が負担する原状回復費用はいくらくらいになるのが普通でしょうか。
1ルームや1Kタイプの部屋であれば、前述の通り3~5年ほどで入れ替えが発生することが多く、その際に発生する原状回復費用は7~8万円程度になるのが一般的です。したがって貸主は、7~8万円の原状回復費用が4年に1度程度発生することを、見越しておく必要があるわけです。
ただ、見落としてはいけないポイントが1つあります。約4年に1度、7~8万円程度の原状回復費用を負担する必要があるのは、賃貸運用のスタイルが「集金代行」である場合です。
ワンルームマンション投資では、空室や家賃滞納が発生してもオーナーに家賃が支払われる「一括借上げ(サブリース)」のスタイルを選ぶ人が少なくありません。そして一括借上げ型であれば、オーナーは原状回復費用を負担する必要はありません。
なぜなら一括借上げ型では、まずオーナーが不動産投資会社に部屋を貸し、その不動産投資会社が入居者に部屋を貸す形になるからです。要は入居者に部屋を直接貸すのは不動産投資会社となり、原状回復費用も会社が負担するのです。
一方、集金代行の場合、空室や家賃滞納が発生した場合、オーナーは無収入になるだけでなく、上で述べたように原状回復費用もオーナーが負担することになります。そのぶん、一括借上げよりも、手数料を安く抑えられるメリットがあります。
ただ両者の手数料を比べてみると、通常、集金代行は賃料の3%前後であるのに対し、一括借上は賃料の7~10%ほどです。したがって一括借上は、手数料を毎月数千円多く払うことで、空室や家賃滞納、そして原状回復費用のリスクをカバーする仕組みともいえます。それをふまえると、この手数料が決して法外に高いわけではないことがよくわかります。
もちろん、何に重きを置くかで、それぞれの価値も変わってきます。多少のリスクを冒しても利回りを上げたいのであれば、集金代行が正解になります。逆に利回りよりも安心感や確実性、手間のなさを求めるのであれば、一括借上げが正解になるわけです。
いずれにしても、不動産投資では原状回復費用のこともきちんと念頭に入れておくことが大切になります。そのうえで、自分によりマッチしたスタイルを選びたいところです。