NAVIVA ナビバ - 不動産投資裏事情

「事故物件に関するガイドライン」でワンルームマンション投資はどうなる?

作成者: NAVIVA運営部|2021年7月21日

不動産投資をするうえで1つのリスクとなるのが、保有する物件で自殺や殺人などの死亡事故が起こることです。いわゆる「事故物件」ですね。

それに対して2021年5月に、国土交通省より事故物件に関するガイドライン案が出されました。これにより、ワンルームマンション投資はどう影響を受けるのでしょう? 以下にまとめてみました。

心理的瑕疵のとらえ方は、人によって大きく違う

そもそも今回のガイドラインは、どんな内容なのでしょうか。正式名は「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」とだいぶお堅い感じですが、おおまかにいえば、物件事故に対してオーナーや不動産業者が負うべき責務の基準を示したものになります。

これまで死亡事故によって心理的瑕疵がある(心理的嫌悪をもたらす)物件の場合、賃貸契約や売買契約を結ぶ際に、借主や買主へ「告知」することが求められてきました。ただ、ひとくちに心理的瑕疵といっても人により解釈が変わるため、オーナーや不動産業者によって対応は異なります。今回のガイドライン案には、そうした課題を解消しようという国交省の狙いがあります。

では、具体的にはどんな基準が設けられているのでしょう。要約すると、以下になります。

●事故物件に関するガイドライン案の内容(一部を要約)

<告知する義務がある事例>

  • 他殺
  • 自殺
  • 事故死
  • 原因が明らかではない死亡

    ※事故死は、下記の日常生活の中で生じた不慮の事故については告知する義務はない

<告知する義務のない事例>

  • 自然死 (老衰、持病、病死)
  • 日常生活の中で生じた不慮の事故
    (自宅の階段からの転落、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など)

    ※ただし自然死や日常生活における不慮の死であったとしても、長時間にわたり放置されたことにともない臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行われた場合は、告知する必要がある

<告知を行う期間>

  • 賃貸借契約の場合、死亡事故の発生から3年経過すれば、告知不要

ちなみに上記の対象となるのは居住用不動産で、オフィス等は対象外とされています。

また、上記についてはあくまでも「ガイドライン案」であり、正式に採択されたものではありません。国土交通省はこの案を5月に発表した後、5月20日~6月18日の間に国民から意見を公募しました。それをふまえた正式なガイドラインを、2021年の夏を目指して公表する予定だそうです。

とはいえ公募による意見をふまえたとしても、大筋では上記のガイドラインの内容が採用されるのではないかと考えられます。もしそうなった場合、ワンルームマンション投資にどんなメリット・デメリットが生じるかを、以下に述べていきます。

死亡事故の“ダメージ期間”がグッと短縮されそう

■ワンルームマンション投資へのプラス面

まず注目したいのが、「孤独死」を含めた自然死が、“告知義務なし”とされたことです。これまでは孤独死が起こった物件も「事故物件」として扱われるケースが多く、また死亡事案に占める孤独死の割合自体が高かったので、事故物件とみなされる物件そのものが大きく減る可能性があります。他にも一般的な病死や、日常生活中の事故による死亡も、告知の必要がなくなります。

それをふまえると、これまでは事故物件として告知せざるを得なかった死亡事案の中でも、けっこうな割合のものが告知しなくてよくなる可能性があり、物件を貸したり売ったりする側にとっては当然プラスとなるでしょう。

そしてもう1つ注目したいのが、「事件や事故発生から3年経過すれば、告知不要」という点です。これまでは、一度その物件で死亡事故が起こった場合、以降はずっと契約時に告知するのが基本でした。それが3年という区切りが設けられることで、その慣習は大きく変わります。死亡事故が起こった場合の“ダメージ期間”が、グッと短縮されるわけです。

以上をまとめると、物件を貸したり売ったりする側にとっては、事故物件のダメージが、これまでより限定的になるといえます。これはまっとうに不動産投資を行っている方、あるいはこれから行う方にとっては、朗報ではないでしょうか。

■ワンルームマンション投資へのマイナス面

一方で、中にはデメリットが生じる人もいるでしょう。

前述のように、心理的瑕疵の基準には個人差があります。したがって「心理的瑕疵がある場合、告知する必要がある」という現行のルールでは、同じような死亡事案であっても告知されるケースとされないケースの両方が混在してしまいます。要は“グレーゾーン”が大きく生じてしまうのです。

そのためにこれまでは、一般的には告知すべき事案であっても告知しないケースも少なからずあったでしょう。また不動産業界では「死亡事故が起こっても、一度入居者をはさめば、以降は告知しなくてOK」というグレーなルールも一部では採り入れられています。

そうして告知なしで契約した場合、もちろん後から契約者が事故のことを知ってトラブルになるリスクもありますが、告知しないことで事故物件ではない通常の物件として賃貸運営できるメリットを得られました。

今回のガイドライン案が正式に採択されれば、そうした「グレーゾーンであることを活かしたメリット」は、受けにくくなります。

売買契約でもオーナーのリスクが大きく下がるかも

さらにもう1点注目したいのが、売買契約においては「告知の期間は決まっておらず、当面の間は告知し続ける必要があるが、適時に見直しを行う予定」とされていることです。これをそのまま受け取れば、売買契約においてもこの先どこかで、一定の告知期間が定められるのではないかと考えられます。

売買契約の場合、賃貸契約よりも心理的瑕疵があることを告知しないリスクが遥かに高いので(※)、これまでは基本的にその物件で起こった死亡事案は半永久的に契約時に告知されてきました。そこにもし今後、一定の告知期間が定められれば、売買における物件事故リスクもだいぶ小さくなります。そうなれば当然、不動産オーナーにはプラスに作用するわけです。

※契約違反により、売り主が物件を買い戻さなくてはならないケースなどが発生し得るため

これまでは貸し手や売り手の主観にゆだねられる部分が大きかった事故物件の告知ですが、当ガイドラインが正式に公表されれば、そこに1つの基準が設けられることになります。要はこれまでグレーだった多くの部分が、白と黒に分かれるということです。

上の通り一部ではそれによるデメリットもあるかもしれませんが、少なくとも事故物件の扱いが健全な方向に近づくことは確かで、大枠で見れば投資家にも入居者にもメリットが大きいといえるでしょう。ぜひ正式に公表されるガイドラインの内容に、注目したいところです。