不動産投資で物件を購入する際に組む「不動産投資ローン」(事業用ローン、アパートローンと呼ぶ場合も)。実は転職後や起業後は、かなり不動産投資ローンが組みにくくなります。実際のところ、どれくらいローンが組みにくいのでしょう?
まず転職の場合は、転職してからの1~2年は、かなり審査が厳しくなります。審査する金融機関からすると、転職後ある程度期間を経ないと、その人が新しい会社や仕事に適応できるかを判断できないのが理由の1つです。実際、一度転職したのを皮切りに、その後何度も転職を繰り返す人がよくいらっしゃいます。収入面に関しても、新しい環境での数カ月分の給与明細と雇用契約書だけでは、審査の材料として乏しいものがあります。
したがって金融機関は「ローン審査をするのは、年度の最初から最後までのまるまる1年間、新しい職場で働いてから」というのを一つのラインとしている場合が多いです。要は、たとえば7月に転職し、翌年の7月にローンを申し込もうとしても、「少なくとも12月まで働いてからにしてください」といわれやすいのです。
ただし例外的なケースとして、明らかにキャリアアップとなる同業界への転職であれば、ローンが組める場合もあります。たとえば業界2位の会社から業界1位の会社へのキャリアアップ転職で、転職後もほぼ同じ仕事をする。金融機関としても、過去に融資の前例があるなどでその会社の事情がある程度わかっている。そんな場合です。
では、起業の方はどうでしょう? 起業してすぐの場合、転職より一層フルローンを組むのは難しくなります。“ほぼ無理”といっても過言ではありません。たとえば「有名企業に30年勤めた人が独立し、1年が経過。起業1年目の年収は2000万円」というケース。一見ステータスはかなり高そうに見えますが、それでも不動産投資ローンはまず通らないでしょう。
それだけ金融機関は経営者という属性を、ローンを安定的に全額回収できるかどうかという面では評価していないことになります。たとえ会社の規模がそれなりに大きくても、「もう長く経営を続けていて、業績も好調で安定している」というようなケースでない限り、審査はなかなか通らないと思います。
そんな前提があるだけに、たとえ近い将来に転職や起業が決まっていても、それを金融機関に告げずにローンを組んでしまえばいいのでは?と考えるのも普通かもしれません。実際のところ、そんなふうにローンを組むことはOKなのでしょうか。結論からいうと、それは銀行に対する虚偽行為となりかねないので、おすすめできません。
たいていのローン審査では、電話や面談で、転職・起業の予定があるかどうかを確認されます。そこで明確に「ない」と答えておきながら、ローンを組んだ直後に転職や起業をしたら、銀行をあざむく行為とみなされてもおかしくありません。
とはいいつつも、今は転職や起業が以前よりかなり身近なものになっています。それもあり、転職や起業の予定というのは、「捉え方」次第な部分もあります。
どういうことかというと、金融機関から確認された時に、もし転職や起業が100%確定していないのであれば、こんな風に答えることもできます。
「誘われている会社はいくつかありますが、まだ決めているわけではありません」
「将来的には起業の可能性もあるけど、今はまだ決めていないし、もし起業するとしても家族の生活や資産形成にできる限り影響が出ない形でやるつもりです」。
上記はあくまで一例ですが、こうした回答であればそれほど審査のマイナスにはならないでしょうし、たとえローンを組んだ後に転職や起業をしたとしても、金融機関もそれほど目くじらを立てないのではないでしょうか。実際世の中には、急に転職が決まったり、突然思い立って起業する人もいるわけです。
では、ローン審査で「近々の転職や起業はない」と明言しておきながら、ローンを組んだ直後に転職や起業をし、それが金融機関に知れた場合はどうなるのでしょう。まず一ついえるのが、こちらから伝えない限り、転職や起業が金融機関に知れることはほとんどないということです。
あり得るとしたら、1件目の不動産投資ローンを組んだ後に転職し、その後2件目の不動産投資ローンを組む際に同じ金融機関に融資を申し込む場合です。その場合は当然、前回と勤め先や属性が違うことが自然と明らかになります。そうなると金融機関としても、「前回の審査の時点で、転職の予定があったのでは?」と考えざるをえません。
といっても、普通にローンが返済されているのであれば、金融機関もお客を強く責めるようなことは基本的にはしないでしょう。金融機関としてもできることなら、きちんと返済してくれる相手への融資を成立させたいというのが本音です。だからローンがきちんと払えていて、転職によりステータスが明らかに下がっていたりしなければ、特に問題視されることもなく、普通にまたローンも組める可能性があります。
ただし起業が発覚した後に、また新たにローンを組むのは、さすがに難しいかもしれません。
では、ローンを組んだ後にいざ転職や起業をしたとして、本当にローンを払えるかどうかの問題です。これに関しては、収入状況や不動産経営の状況により千差万別なので、一概にはいえません。
ただし1ついえるのは、たとえば家賃保証付きのワンルームマンション投資であれば、転職や起業後であってもローンが支払えなくなるようなことはそうそうないのではないでしょうか。なぜかというと、これなら毎月の持ち出し(※)が1万円程度ですむのが一般的で、空室が発生した際の突発的な持ち出しもありません。毎月1万円程度の支払いであれば、よほどのことがない限り、返済し続けられるはずです。
そう考えると、転職や起業で収入が不安定になりそうなのであれば、そうした自分にとって無理のない不動産投資法を選ぶことが大切なポイントになってきます。
※毎月の家賃保証額から、ローン返済額とオーナーが支払う管理費・修繕積立金を引いたもの
ちなみに転職や起業した後であっても、不動産投資ローンを正々堂々と組む方法が実はあります。それは、頭金を収める方法です。頭金の金額は、物件価格の3割程度が一つの目安。つまり物件価格が2000万円なら、頭金は600万円ほどになります。実際にそうやって自己資金をはじめにいくらか投入して不動産投資を始める人も、少なからずいます。
頭金を入れた場合、フルローンよりも利息が圧縮され、運用収支は良くなります。不動産投資は状況によっては、フルローンを組むことが最良の方法とは決して限らないのです。
家賃収入を毎月得るというビジネスモデル上、不動産投資は早く始めるに越したことがありません。早く始めれば始めるほど、「生涯家賃収入」が多くなるからです。だからこそ、始められる=ローンを組めるタイミングを逃さないようにするということを、ひとつ頭に入れておいてください。